コンポーザーが教える作曲テクニック99 瀬川英史 著
リットーミュージック; A5 edition (2010/11/25)
*中級者~上級者向け
おそらく日本で一番多忙な作曲家、瀬川英史さんの作品。
膨大な彼の作品群はテレビで耳にしない日はないことでしょう。
そんな氏の作曲のテクニックすべてが満載された良書。
でも失礼を承知であえて言わせていただくなら「作曲本」ではありません。
たとえばギターを初めて手にした高校生なんかが「おっしゃ!曲を作るだべ!」と思って手にしたら大ハズレになってしまうでしょうね。苦笑。
実際、そういう作曲テクを望むユーザーからはかなり酷評されているようです。(Amazonのレビューなどで)
それもまったくそのとおりだと思います。
しかし、作曲のみならず大系的に音楽全般を学ぶ、音楽業界を学ぶ、そしてプロの職業音楽家の仕事を学ぶための素晴らしい本だと思います。
このリットーミュージックのシリーズのフォーマットに準拠して、99の項目に分けて精神論から聴くべきCD、かなり高度な和声のこと、DTMの重要性、職業作曲家の生き様なんてものが語られています。
おいおい、こんなことまでバラしていいの?
うあ!こんな細かい事まで??
なんて言う面白テーマも満載。
写譜ペンの使い方はびっくりしたなあ~!わはは。
もちろんぼくらジャズ学習者&演奏者にとって本当に有益なものも非常に多いです。
ジャズだけを学校で学んでいては絶対に知りえないことについても多く書かれています。
作曲のみならず、アレンジのヒントが満載。アレンジに悩む人にはかなり強力な助け舟になること間違いなし。
もちろんジャズ演奏者としてアドリブ演奏に活かせるポイントもたくさんあるぞ。
ひとつ引用させていただきましょう。
「(歌モノのレコーディング。間奏で、)弾きまくりのギターソロなんて本人以外誰も聴きたくない。歌のメロディーをちょっとフェイクしただけのソロこそが一番説得力を持つソロだ。
そんなソロができるプレイヤーは音楽家としての信用が一瞬で高騰する。
そしてそんなソロをその場でアドリブで生み出せるなんて本当の天才のみだ。」
これはぼく自分が長年の演奏経験とレコーディング経験で学んできたことと全く同じでびっくりしたのです。
否、わかっていたんですけどね。ここまでわかりやすい文章にされて適切に表現されてかなりびっくりしたんですよ。
そして演奏家のみならず、いかなるジャンル、スタイルでも、プロとして生きるための必須の知識や経験談がぎっちりと詰まっています。
コンポーザー/アレンジャー/パフォーマー/ミキサー/プロデューサー、どの職種でもプロなら絶対に役に立つ情報の宝庫であると断言してしまいましょう。
本当の職業音楽家だからこそが語れるテーマばかりです。
そして職業音楽家を目指す人なら読むべき本。
ひとつ問題は、かなり広範なテーマに触れすぎていて、物理的に紙面が限られているため、掘り下げたところまでは書かれていない、書ききれていない項目が少々あるみたいなのです。
(これは著者ご本人も指摘されてます。)
実際ぼくもいくつかの項目でそんな感想を持ちました。
「うあ!すごい!そうだったのか!でももうちょっと説明してよ!!」てな感じ。
しかし、確かにオーケストラの弦の和声について1ページでまとめろなんて土台無理な話。
この本をガイドにして、うんと興味を持った分野に関してはより深いところを自分で掘り下げていくのが良いでしょうね。
++++++
前回の良書ガイドもそうなんだけど、実は全然「Jazz向け」ではないんですよね。そこはどうぞそういうものだと思ってご了承くださいませ。
しかし、おれレッスンでもいつも話すけど他のジャンルの音楽を勉強すること。ジャズとかアドリブだけに固執せず、音楽全般を広い視野と興味で柔軟に勉強すること&楽しむことが何より重要だと思うのです。
そんな観点からひとつ前に紹介した本と今回のこの一冊は絶対にお勧めできます。